小脳梗塞に対するアプローチ〜運動に必要な3つの感覚から考える〜
みなさんこんにちは
今回は、ケースレポートを交えて小脳梗塞に対する評価と治療についてお伝えしていきたいと思います。
今回のコラムは
- 理学療法士
- 新人理学療法士
- 若手理学療法士
それではやっていきましょう
考えるべき感覚
- 体性感覚
- 前庭感覚
- 視覚
- 体性感覚(表在・深部)▶︎ここでは深部感覚とほぼ同義である固有感覚(関節位置、筋張力、空間の方向性)として扱う
- 前庭感覚▶︎慣性、加速度
- 視覚▶︎そのまんま
小脳の機能とは
小脳=前庭システム
→眼球運動(前庭動眼反射)、体性感覚、前庭感覚の統合と前庭脊髄路への出力
つまり小脳梗塞により、眼球運動、感覚の統合、前庭脊髄路にエラーが生じる。
評価
感覚の評価
上記の3つの項目は評価必須
今回のケースでは、
- 眼球運動▶︎固定的。
- 感覚の統合▶︎体性感覚低下、前庭感覚過剰、視覚との統合の不一致
- 前庭脊髄路▶︎発火しすぎ
視覚への依存度の評価
また今回は評価せずに治療していたが、開眼と閉眼におけるバランスの違いをみておくと、視覚の影響がバランスに関与しているかがわかりやすい。
今回のケースでは、閉眼の方がバランスがいいと仮定して治療を進めている。
これはどういうことかというと、繰り返しにはなるが、眼球運動、視覚と体性感覚と前庭感覚の統合が上手くいっていなかったのが、
閉眼することで体性感覚と前庭感覚での運動制御が行われ、前庭感覚をメインに運動制御をした結果ふらつきが軽減すると推察した。この場合は体性感覚と視覚のマッチングと過剰に働いている前庭系の修正を行うということが必要になってくる。
仮に、閉眼で動揺が大きくなった場合は、視覚に依存した運動制御であり、体性感覚と前庭感覚を運動制御で使えていないことが考えられ体性感覚と前庭感覚へのアプローチがメインとなってくる。
その他評価
- 重度四肢の失調
- 著明なROM制限なし
- 筋力低下なし
- 基本動作見守り
- 独歩接触介助
- 頭蓋骨、環椎後頭関節の硬度の高さによる骨アライメントの逸脱
- 側頭骨周囲の硬度の高さ
- 臥位▶︎四肢の緊張が高く脱力できていない。ベッドへの接地面が少ない
- 座位・立位▶︎四肢緊張の高まり、身体動揺
- 起居動作(寝返り・起き上がり)▶︎勢いがつきすぎている
- 立ち上がり・移乗▶︎過剰な伸展動作。ステップでふらつき
- 歩行▶︎リズムはOK。ふらつき
ストーリーの導出
体性感覚・前庭感覚の統合がうまくいかず、また、眼球運動が固定的のため、視覚との感覚の統合も不一致。視覚と前庭感覚に依存した運動パターンになっている。前庭感覚に依存した結果、前庭脊髄路が過剰に発火している。
介入例
体性感覚入力
治療の最優先は”体性感覚入力”になる。前述した、頭蓋骨、環椎後頭関節及び側頭骨周囲の硬度の高さは、前庭感覚に依存した運動パターンの結果である可能性が高いため。
闇雲に硬度が高いから硬度の高い場所を治療するのでは、硬いところがあるからマッサージするのと変わらない。
まずは、視覚をシャットダウンし、加速度も入力しないように前庭感覚もシャットダウンさせた中で介入することで体性感覚の重みづけが可能。体性感覚入力として第一に選択されるべきは、”腹臥位”である。身体前面から床反力情報を入力することができる。そうすることで、自己の身体認知が向上し、自分の身体がどのような状態にあるのか知覚できるようになる。自分の身体が知覚できるようになると、自然と四肢の緊張は抜けてくるはず。
腹臥位が取れるケースは少ないため、腹臥位が取れない場合は、closeな環境設定をしてあげることが大切。例をあげると、四肢がフリーな状態だと、自分の四肢がどこにあるのかわからなくなってしまうため、立位のオンエルボーでcloseな環境設定してあげることで四肢がどこにあるのかを体性感覚を通して認識してもらう。もちろんこれも視覚を遮断した中で行う。
また、体性感覚が入力され、自己の身体の認識が向上すれば介入自体はなんでもいいため、擬似的に腹臥位のような環境を設定してあげるのもひとつであり、例えば臥位の状態でバランスボールを抱えてもらうそうすることでバランスボールの重みが身体前面に入力され、身体が知覚しやすくなる。また、側臥位から加速度をつけないように寝返りをひたすら繰り返し、床反力情報を入力してあげるのもひとつ。
徐々に難易度を上げていくとすると、視覚と前庭感覚を遮断した中で、クローズな環境での他動運動→自動運動を進めていく。
体性感覚入力がされると、身体の変化として恐らく発火しすぎていた前庭脊髄路が正常化されるはずなので、基本動作時の勢いのつきすぎの軽減が図れる。仮に軽減が十分に図れない場合は、前述の頭蓋骨、環椎後頭関節及び側頭骨周囲の硬度の高さが二次的に生じたものではなく、今回の小脳梗塞の影響が強いことが推察されるため、ここではじめて、同部位への硬度の低下を図る介入がなされる。体性感覚を入力する前後の環椎後頭関節及び側頭骨周囲の硬度を評価することで小脳梗塞の影響が強いのか感覚統合のエラーによる二次的な要素が強いのかが判別できる。
眼球運動(視覚)と体性感覚のマッチング
体性感覚入力の次にやるべきアプローチは、眼球運動と体性感覚のマッチングである。生活する上で視覚・体性感覚・前庭感覚の統合は必須なので、十分に体性感覚が知覚できるようになったタイミングでマッチングを促していく。
眼球運動と体性感覚のマッチングを行うときも、原則は徐々にcloseからopenな環境設定をしていくことが重要である。いきなりopenすぎる環境では、膨大すぎる情報量を処理・統合することができず、四肢の緊張を高める運動パターンを引き起こしてしまうためだ。
まずは、closeな環境で加速度が入力されないようにゆっくりと頸部の動きを自動運動で行い、頸部と眼球運動の連動を図っていく。頸部の動きと眼球運動が連動してきたタイミングで徐々に上肢の運動と眼球運動を連動させ、眼球運動と体性感覚のマッチングを図っていく。治療の姿勢も臥位、側臥位、腹臥位など支持基底面が広い状態から始め、徐々に座位や立位での眼球運動と体性感覚のマッチングを行っていく。
二次的な要因を改善
今回は触れていないが、四肢・体幹は少なからず安定性を代償するために、固定的になっているため二次的に硬度が高くなっているケースが多く、体性感覚入力することで軽減が図れるケースもあると思うが、代償での動作パターンが定着してしまっている人は代償部位の直接的な介入も必要な場合もでてくる。
まとめ
今回は小脳梗塞を例に、運動に必要な3つの感覚=視覚・体性感覚・前庭感覚の評価の方法とどの感覚にアプローチすべきかについてまとめました。今回のケースでは、視覚と体性感覚のマッチングのエラーと前庭系の過剰発火が原因で動作のふらつきが生じてしまったケースでした。
小脳梗塞に限らず、脳血管疾患は3つの感覚の内、どの感覚が優位でどの感覚情報が乏しく利用できていないのかを評価し、どの感覚に対して感覚入力をしていくのか明確にした上でアプローチすることが大切だと学びました
考え方の根本は統合的運動生成概念を基にしています
ではでは^^