栄養コンシェルジュ#9
エネルギー代謝
①身体のエネルギー
食品や運動のエネルギーはカロリー(kcal)を単位として表現されます。
エネルギー代謝のパターンは臓器や状態によって異なっています。
脳細胞では、グルコース(ブドウ糖)を代謝して生じるエネルギーを利用しています。空腹時や飢餓時にはケトン体も利用します。
脳神経が働くためには1日約140gのグルコースが必要です。
肝臓では、主に脂肪酸をエネルギー源としています。
骨格筋では、運動初期や無酸素運動時など酸素が細胞内に十分供給されていないときには、グルコースやグリコーゲンが無酸素的に燃焼されて得られるエネルギーを利用します。このとき骨格筋内で乳酸が発生し、血液に放出されます。
酸素が十分に存在するときには、有酸素的に細胞内のミトコンドリアによってエネルギーが効率よく大量に産生されます。(有酸素運動)
②絶食時のエネルギー
糖質の摂取がなくても血糖値は維持しなければ低血糖になり昏睡してしまいます。
糖質は肝臓内にグリコーゲン(グルコースの貯蔵庫)として蓄えられています。
血糖値を維持するために肝グリコーゲンがグルコースに戻り、血液に放出され続けます。
食間や絶食では肝グリコーゲンは減っていき、絶食が続けば肝グリコーゲンは枯渇します。
肝臓グリコーゲンが枯渇しても血糖値は維持しなければいけません。そこで筋タンパク質が分解されてアミノ酸が血液に放出され、肝臓細胞内でグルコースへと変化します。これをアミノ酸の糖新生と言います。
さらに絶食が続くと、全身でのグルコース(血糖)の利用が節約され、肝臓では脂肪酸からケトン体が合成されて血糖のさらなる節約をおこなって延命します。
この絶食によってケトン体が合成された状態を飢餓状態と言います。
飢餓状態は”体内の糖不足”によって引き起こされる状態です。
絶食を始めてすぐには飢餓状態にはならず、肝グリコーゲンや骨格筋由来アミノ酸の糖新生によって血糖値は通常濃度(約90~100mg/dL)が維持されます。
絶食3日目から急激に血糖値は節約され(約80~90ml/dL)、全身での血糖節約状態になります。つまり基礎代謝が低下(節約、省エネ化)します。
この時、肝臓のα細胞からグルカゴンが大量に分泌され、骨格筋由来のアミノ酸から血糖を作り出そうという必死の状態になります。肝臓からケトン体も必要量が合成され始めます。
カテゴリー1を摂取するとインスリンが分泌されて、糖質やアミノ酸を骨格筋に取り込ませていきます。インスリンは食後に分泌されるのではなく、実は空腹時にも少量分泌されており、これをインスリンの基礎分泌と言います。インスリン基礎分泌は食間にも筋肉にも働きかけて筋肉維持のために働いています。しかし、飢餓状態ではインスリン基礎分泌は急激にストップし、インスリンによる筋肉維持効果が失われます。そして、筋肉はアミノ酸を大量に放出し、そのアミノ酸が糖新生されることで血糖を維持し、延命優先の状態になります。こうして身体は消耗モードに切り替わります。筋肉は崩壊しますが命を維持するために不可欠な代謝システムと言えます。
③運動時のエネルギー
運動すると、副腎髄質からカテコールアミン(ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリン)が放出されて、グリコーゲンや脂肪酸を分解してエネルギーを供給します。
運動によって骨格筋内で利用されるエネルギーは、まずはじめにクレアチリン酸、次に骨格筋グリコーゲン、肝臓グリコーゲン、肝臓の糖新生によるグルコース、遊離した脂肪酸の順で加わっていきます。
肝臓で合成されたケトン体も運動時のエネルギーに用いられますが、脂肪酸に比べてその割合は大きくなく、すぐに消費されるため通常血中濃度は増加しません。
筋トレや瞬発的な運動などの無酸素運動時には、骨格筋内に蓄えられていた筋グリコーゲンがエネルギーとして使われます。糖質エネルギーが使われるため、それらの運動の際には捕食として糖質摂取を考慮します。
④エネルギー代謝のリズム
目の奥(視交叉上核)では、太陽の光を感知して全身の時計遺伝子に働きかけて、全細胞に知らせています。
太陽光を浴びた瞬間、全身の細胞がリズムよく、同じタイミングでスムーズに働き始めます。全身の細胞や臓器は同じ時間軸で働くため代謝の連携はスムーズです。
太陽が沈むと、全身に夜であることが伝わり、3時間程度で完全に基礎代謝は低下し、エネルギー消費モードから蓄積モードへと切り替わります。夏なら日の入りが19時頃なので22時頃には蓄積モードに、冬なら日の入りは17時頃なので20時頃には蓄積モードに切り替わります。これが夜食や冬場に太りやすい理由です。
朝は太陽光により時計遺伝子からエネルギー消費状態が始まります。
ヒトは朝から活動を開始するので、朝日とともにエネルギー蓄積モードから消費モードへと切り替わっていきます。
この時、朝焼けの光によって、グルカゴン分泌が起こり、血糖値が上昇し、脳が覚醒し、目が覚め、筋肉が動き、全身の細胞が働き始めます。
しかし、この朝のエネルギー消費状態は、食事もせずに長く続くと、身体は「消費しすぎ」と判断して、急速に省エネモードに切り替わります。
省エネになるだけでなく、次の食事に対する吸収能と蓄積能が亢進します。相撲取りは、空腹で早朝トレーニングをしてから朝食としてちゃんこ鍋を大量に食べるので脂肪が増える現象と同様です。
朝食にカテゴリー6のみを食べた場合の身体の反応
朝は残り少ない肝グリコーゲンを放出します。そこに果糖(砂糖)が入ってくると、肝グリコーゲンの消費を止めて、果糖をグルコースへと糖新生して放出します。この時、果糖由来のグルコースが血糖維持に使用されますが、果糖はグルコースになって出ていくだけなので、肝グリコーゲンは回復しません。すると結局、肝グリコーゲンは枯渇し、昼食までの間に省エネモードへとなり、肝臓は飢餓に備えた脂肪合成は亢進した状態になってしまいます。
朝日とともにグルカゴンが肝臓の糖質をさらに放出させ始めます。つまり、本来はこの時点で肝臓内の糖質は枯渇していきます。枯渇を引き起こす原因は絶食です。絶食は英語でfastと言います。つまりfasting状態を打ち消す(breakするためにbreakfast(朝食)が必要なのです。そしてbreakfastができるのはインスリンを分泌できるカテゴリー1のみです。
朝食にカテゴリー1(デンプン)を摂ることでインスリンが分泌し、グリコーゲン蓄積が起こり、省エネモードへの変化を防ぐことができます。
太陽光が最も強くなる12時以降は、全身の細胞が活性化しています。
糖質や脂質からエネルギーを生み出し、タンパク質を材料に細胞やホルモン、遺伝子を修復したり老廃物を排泄したりするなど全細胞が活発に働いています。
体内時計のリズムは太陽光で調整されています。現代では、日が沈んでからも街の明かり、テレビ、パソコン、携帯電話やスマートフォンの明かりにされされています。これらの光は太陽光(2000~100000ルクス)よりも弱く、蛍光灯(400ルクス前後)程度では刺激が弱く、全身の細胞への伝達は不規則になります。全身の細胞の時計遺伝子に誤差が生じてくると代謝の連携がうまくいかず滞りが生まれてきます。反対に、朝に太陽光を浴びることは全身のリズムをとらせるには強力であり、朝日を浴びることは1日の体脂肪燃焼の始まりといえます。
太陽光が強い赤道に近い国では痩せ型が多く、冬場や寒い地域では日照時間が短く、エネルギーの消費時間が短いため肥満体型が多くなります。(もちろん食事内容の違いもあります)
代謝には酸素も必要です。酸素は呼吸で自然に補給できますが、姿勢や肥満で呼吸がうまくいかなくなると酸素供給が減り、代謝が低下します。イビキや睡眠時無呼吸症候群(肥満で多い)では代謝が悪くなっており、痩せにくくなったり血糖値が上がりやすくなったりします。
本日はここまで。
ではでは〜^^
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