アイシングのウソホントについて現役理学療法士が解説してみた
みなさんこんにちは
今回は、アイシングについてお伝えしていきたいと思います。
令和の時代の今でもプロ野球を見ていると、投球後にアイシングをしている選手を見かけると思います。果たして、投球後の処置として、本当に正しいのか。はたまた、むしろ間違っていて本当は辞めた方がいいのか。そんなアイシングのウソホントについてお伝えしていきます。
このコラムは
- スポーツ現場で働く人
- アイシングについて知らない人
- 部活動をやっている学生
それではやっていきましょう
アイシングとは
そもそもアイシングとはRICE処置の一種で、RICE処置とは日本整形外科学会によると
スポーツの現場で「ケガ」人が出た時、病院や診療所にかかるまでの間、損傷部位の障害を最小限にとどめるために行う方法を『応急処置(RICE処置)」と言います。この応急処置は、早期スポーツ復帰に欠かせないものです。
日本整形外科学会
しかし、応急処置をしなかったり、不適切な処置を行うと復帰までに時間がかかります。意識消失、ショック、頭・首・背部の外傷や大量出血、脱臼、骨折が疑われる著明な変形など、重症な時は、すぐに救急車やドクターを呼び、むやみに動かさないようにしましょう
外傷を受けた時などの緊急処置は、患部の出血や腫脹、疼痛を防ぐことを目的に患肢や患部を安静(Rest)にし、氷で冷却(Icing)し、弾性包帯やテーピングで圧迫(Compression)し、患肢を挙上すること(Elavation)が基本です。
RICEはこれらの頭文字をとったものであり、スポーツを始め、外傷の緊急処置の基本です。RICE処置は、捻挫や肉離れなどの四肢の「怪我」に行います。
ここまでまとめると
RICE処置=外傷の応急処置で行うこと
という認識になります。
ここで一つ疑問が浮かびます。
「野球選手の投手の登板後のアイシングは、外傷じゃないのになんで冷やすの?」
「運動後はアイシングをした方がいい」これは誰もが聞いたことがあることなのではないのでしょうか。本当にアイシングするといいのかについて解説していきます。
アイシングと温めた後の骨格筋線維の構造変化
Structural Changes in Skeletal Muscle Fibers after Icing or Heating on Downhill Running in Mice
マウスが下り坂を走り、アイシング、温めた後の骨格筋線維の構造変化
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC8622214/
マウスの骨格筋線維の筋鞘破壊を伴わない軽度の運動による筋肉損傷に対するアイシング及び加熱治療の効果を調べること
骨格筋の軽度の構造的損傷を作るために20°傾斜したトレッドミルを用い20m/minの一定速度で合計90分実施された。
アイスパックとホットパックは両側前肢の後面に20分間経皮的に適用
右上腕三頭筋を採取し、分析した。
トレッドミル後の筋鞘は破壊されなかった。
トレッドミル1日目のアイシンググループの構造障害の割合は、何もしない群と温める群と比較して高かった。
トレッドミル7日目に全てのグループの構造障害を示す筋線維の割合は初期レベルと比較すると回復したが、アイシンググループは何もしないグループ及びホットパックグループと比較して構造障害を示す割合が高かった。
・トレッドミル後の筋線維の構造変化がアイシングによって悪化し、温めることでわずかに改善されることが示された。
アイシングは肉離れなどの筋損傷後の再生を遅らせる?!
Icing after eccentric contraction-induced muscle damage perturbs the disappearance of necrotic muscle fibers and phenotypic dynamics of macrophages in mice
遠心性収縮の筋損傷後のアイシングはマウスにおける損傷筋の貪食およびマクロファージの到着が遅れる
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.01069.2020
遠心性収縮モデルマウスを用いた筋損傷に対するアイシングが筋再生を遅らせる、またマクロファージの活動を遅らせる
肉離れに近い筋損傷を起こせる遠心性収縮モデルマウスを用いて、損傷後のアイシングが壊死性筋線維の筋原性細胞への置換を変化させるか、および筋再生中のマクロファージの動態にどのような影響を及ぼすか観察すること
遠心性収縮は、電気刺激によって強制的に筋を働かせている間に、その運動とは反対方向に、より強い力で足関節を運動させることで引き起こし、その後筋を採取した。アイシングは、皮膚の上から30分間、2時間ごとに3回行い、これを損傷後2日後まで継続した。
損傷後2週間後の再生骨格筋を観察すると、アイシングをした群はアイシングをしていない群に比べて、横断面積の小さい(横断面積の小さい)再生筋の割合が有意に多かった。すなわち、アイシングによって骨格筋の再生が遅延している可能性がある。
再生過程で何が起きているのかを調べるため、アイシングを施した群と施していない群の動物で、時間経過を追って筋を採取して調べた。
損傷筋の再生過程では、炎症細胞が集まってきて、壊れた筋のゴミのようなものを貪食し、そこに新しい筋が作られていくのですが、アイシングをすると損傷した筋細胞の中に炎症細胞があまり入っていかないことがわかった。
損傷筋の中に入る代表的な炎症細胞としてマクロファージがあり、マクロファージには主に貪食を行って炎症細胞を引き起こす炎症性マクロファージと、炎症反応を抑制し、修復を促す抗炎症性マクロファージが存在します。炎症性マクロファージは抗炎症性へと特性を変えていくことが想定されています。本研究はチームの実験の結果、アイシングを施すと、炎症性マクロファージの到着が遅れていることがわかりました。
アイシングした群では、アイシングした3日後の抗炎症性マクロファージの集まりが悪く、5日後に集まっている。
アイシングを行うと、炎症性マクロファージが早期に損傷筋に集まっていない。遅れて5日後、7日後に炎症性マクロファージが観察された。
これらの結果から、遠心性収縮による重い筋損傷の後にアイシングを施すと、炎症性マクロファージによる損傷筋の貪食が十分に行われず、それが原因で新しい筋細胞の形成が遅れる可能性が示唆された。
この研究に関わった、教授はこんなコメントを残しています。
まとめ
今回2つのアイシングについての研究を紹介しました。
まとめると
- 筋鞘破壊を伴わない、軽微な筋損傷に対するアイシングは、筋線維の構造変化を悪化させる。むしろ温めると僅かに改善する
- 重篤な筋損傷に対するアイシングは、損傷筋の貪食を行う炎症性マクロファージの到着を遅らせる
以上のことがわかりました。
結論「アイシングはしない方がいい」
ということになるかと思います。
一概にアイシングはしない方がいいというのもアレですが、ここまで研究結果で出ていると、説得力もあると思います。
アイシングが全てではないということを知っていただければ幸いです。
ではでは^^